「ぶんハピねっと」が注目する、国分寺の「あの人」にインタビュー。
第4回目は、国分寺おもちゃ病院の院長、角文喜先生。自宅で壊れたおもちゃを無料で修理。今までに修理したおもちゃは1000件以上になる。治癒率は、91%の名医。養護学校教員時代の教材づくり、子どもの遊びについてなどおもちゃを通した興味深いお話を伺いました。
角 文喜さんのプロフィール北海道小樽市出身。養護学校が義務化になる前に養護学校教員となり、教材づくりを通しておもちゃ修理を経験する。教員時代から「おもちゃ病院」の院長としての活動を始め、養護学校を退職後、専門知識を得たいと専門学校にて電子工学を学び、様々な資格を取得。 |
養護学校教員時代、教材としておもちゃと出会う
―まずは、おもちゃ病院の活動を始めたきっかけをうかがいたいのですが。おもちゃとの出会いはどんなところからだったのでしょうか?
角先生(以下、敬称略) 私は、元々知的障がい児の養護学校の教員からスタートしました。私が教員になった時は、養護学校がまだ義務化になる前だったので、教科書も教材もなく教える内容は全て教師に任されていたんですよ。
全てが手探りの状態でした。今から考えると信じられない環境です。それで、一人一人の子どもに合った教材を探す中で見つけたのが“おもちゃ”でした。
学校から教材費の予算はないので、色々安いおもちゃを探しましたね。スーパーの前に露店でおもちゃを売っているおじさんと仲良くなり、段ボールいっぱいに入った壊れたおもちゃをもらってきて、修理して教材に使ったりしました。
一から自分で作ると大変だけれども“おもちゃ”に少し手を加えることでいろいろな教材になりました。だから“おもちゃ”との付き合いは長いですね。
―その経験がおもちゃ病院をはじめるきっかけになったんですね。
角 私の場合は、私の経験の延長上にある活動という感じですね。直接のきっかけは、教員時代に新聞で「おもちゃ病院」の紹介記事を読んだことです。
専門的な知識はなく、全くの我流だけれど、今まで壊れたおもちゃを修理して教材を作ってきた経験があったので、私にも出来そうな活動だと思いました。おもちゃ病院の活動をしているところへ連絡し、夏休みなどを利用して活動に参加し、色々教えてもらっていました。
―定年後ではなく教員時代から既におもちゃ病院の活動を始めていたということですか?
角 そうですね。自宅だと曜日に関係なく出来るから「取りあえず開いちゃおう」と教員をやめる前から活動を始めました。教員時代の最後の方ですが、施設の訪問教育をやっていたので、施設の中で使う教材のおもちゃを治すこともしていました。
専門知識と資格を取得するために電子工学の専門学校へ
―退職後は、専門学校に入学されたそうですがこれは計画していらしたんですか?
角 実は、教員時代に体を壊してしまって、定年よりも1年早く退職したんですよ。辞めると時間は自由になるし、退職金はあるし、少し好きなことをやりたいなと思って八王子にある「日本工学院八王子専門学校」の電子・電気・CAD科に入学したんです。
計画していたことではありませんが、おもちゃ病院の先生といっても資格があるわけではないので、頼む方も不安でしょ。それで何か資格を持ちたいと思ったのと、専門的な勉強をしてきてないのでちゃんと勉強したいと思っていたんです。
―若い学生さんに混じって講義を受けるというのはどんな感じでしたか?
角 この年で入学する人は珍しいので、よく話しかけられたりして面白かったですね。 ただ朝から晩までずっと座ったままの講義が続くのがちょっと大変でした。でも興味のあることを必死で勉強したので、就職をするなら校長推薦がもらえるくらいの成績で結構優秀だったんですよ。学校では、「資格は邪魔にならない、出来るだけ取れ」ということだったので、私は頑張って、3年間で7つの資格を取りました。
―「具体的にはどのような資格を取得されたんですか?
角 第二級陸上特殊無線技士と第三級海上特殊無線技士。それから電気工事士。一番欲しかったのが家電製品エンジニアという資格でした。この資格は家電製品を修理する技術者の資格で、これは「生活家電」と「AV情報家電」という二つ の資格に分かれているのですが、それぞれ合わせて5回の挑戦で何とかとることができました。
あとボイラー技士やアーク溶接などの資格も取りました。二年間で電子・電気CAD科を卒業したのですが、もう少し勉強がしたくてテクノロジー研究科に進学。ロボット工学を専攻し、実習を中心に更に一年間勉強し、結局専門学校には三年間在籍しました。
―ロボット工学とはまた最先端ですね。実際にロボットを作るんですか?
角 卒業前に相撲ロボットを二人1組で作って競技をする大会があるんです。そのロボットの設計デザインからプログラミングまでを全て自分たちで作り、大会で戦わせるんです。実は、その大会で優勝しました。
自分の作ったもので優勝するのは気分がいいですよね。しかも将来のロボット業界を背負う若者達と張り合って勝ったというのは本当に嬉しかったですね。
「国分寺おもちゃ病院」は全国でも貴重な存在
―今まで「国分寺おもちゃ病院」は何度かメディアで紹介されていますね。
角 2011年に東京新聞で紹介記事が掲載されました。東京新聞の親会社は中日新聞なので中日新聞にも同じ記事が、こちらはカラーで掲載された様で、名古屋や富山など各地から問い合わせが来ました。新聞を見た人は、「今度頼んでみよう」と記事を切り抜いて連絡してくれたりしましたね。新聞に紹介されるとテレビ局からも取材の依頼があり、日本テレビでも紹介されました。
―「おもちゃ病院」は国分寺だけではなく全国にあるんですか?
角 全国に「おもちゃ病院」はあります。ただ、余り存在が知られていないのと、知っていてもやっている場所が児童館や公民館で、活動日も月に1回というのがほとんどなので、おもちゃをすぐにでも治してもらいたいという人々のニーズには十分応えられていないことがあるのだと思います。
さらに自宅でやっていて「いつでも開いています」というところは少ないので、色々探した人が私のところにたどり着くようです。ここでは宅配でもOKとしているので福岡県、鳥取県、三重県など遠方からも修理の依頼があります。
ー依頼で多いのはどのような修理ですか?
角 電池を使ったおもちゃの不具合の半分以上は、電池がなくなっただけなんですよ。みなさん電池の容量がどれくらいかわからないので、電池がなくなっていることに気づかない人が多いみたいですね。100円ショップでもバッテリーチェッカーを売っているので、チェックしてみるといいと思います。後は、電池のふたをなくした人がよく来ます。
―家にもいくつかあります。フタがなくなると電池が落ちて不便なんですよ。(笑)
角 そうでしょ。よくガムテープで留めてる人がいますよね。ここでは、修理の他にアルミ板を加工して新しいフタを製作することもあります。
―子どものおもちゃ以外も修理してもらえるんですか?
角 もちろんです。最近多いのは一人暮らしのお年寄りがよく持っている「プリモプエル」という癒しの人形です。これはあらかじめ時間設定しておくと、季節や時刻に応じた会話ができるようになっているんですね。 手にスイッチがあり、頻繁に使われるので、その部分がよく壊れるんですね。同じお人形を3回くらい直しに来たおばあちゃんがいました。既にブームは過ぎたと思っていたら最近、メーカーが修理を受け付けなくなったようで修理の件数が多くなりました。
おもちゃ病院の協会では、電気製品は治さないんですが、私は家電製品エンジニアの資格を持っているので電気製品でも何でも受け付けています。「ダメもと」で治れば「めっけもん」と思ってもらえるといいですね。でもこの間「洗濯機はどうですか?」って聞かれたんですが、出張で修理はしないので是非、持ち運べるものでお願いしたいと思います。(笑)
―修理は、基本、無料ということですが、加工したりすると材料費が必要ですか?
角 親御さんが持ってきた時は、材料費を100円程度いただくことはありますが、子どもが自分でおもちゃを持ってきたときは無料にしてます。(笑)ただ、部品交換の場合は、実費のみいただいてます。
子どもが関われるシンプルなおもちゃを
―障がい児支援にも力を入れていらっしゃる様ですが「スイッチ教材」について教えて下さい。
角 簡単に言えば、障がいを持ったお子さんでも普通のお子さんが遊ぶおもちゃで遊べるようにスイッチ部分を外部に取り出すということなんです。
スイッチの種類は障がいの程度や出来ることによって違いますが、指先の細かい動作が出来なくても体の一部が自分の意志で動かせれば遊べるんですね。私が関わってきたお子さんはここにあるものでだいたい対応出来ます。特に寝たきりの重度の障がいを持った子どもたちは、遊べるおもちゃが限られていて、自分から働きかけることが出来ずほとんどが受け身なんです。でも赤外線のスイッチなら、おもちゃにスイッチを埋め込むだけで家にあるテレビのリモコンなどで遠くから自分でおもちゃを動かすことが出来るんですよ。
―自分の意志でおもちゃを動かせるというのがいいですね。
角 私が教育で一番大事にしてきたことは「自己選択」「自己決定」ということです。自分で選んだことを自分でやるためにこのスイッチ教材は、とても有効なものです。
―最近のおもちゃは自分から関わるより受け身なものが多い気がしますが、どう思われますか?
角 最近の電子的なおもちゃは、おもちゃが自分で遊んでいるような物が多いですね。眺めて遊ぶだけの物が多いですよね。
治す側から見れば、出なかった音が出たり、動かなかったものが動くのは治した充実感があり楽しいんですけど。本来、子どものおもちゃは、イメージを膨らませたり、工夫したりしながら遊ぶ道具なんですよ。子どもがもっとおもちゃと関われるものがいいと思います。
特に小さいうちは、勝手に動くおもちゃよりも自分で動かしながら、イメージを広げてあそべるシンプルな物がいいでしょうね。
―最後に今後の活動について考えていらっしゃることをお聞きしたいのですが
角 おもちゃを治すのは自分の趣味でやっていることなのですが、治す事を通じて物を大切にするという気持ちを持ってもらいたいと思っています。
それから、出来るだけ子どもの目の前で修理をしたいですね。おもちゃの内側は外からみるのと全然違うし、壊れた原因がどこかわかってそれで興味をもってくれて自分でも治してみたいと思ってもらえると嬉しいですね。
おもちゃを治すことは「科学の目」を育てることだと思うので、子どもたちの「科学の目」を育てる機会をこれからも増やしていきたいと思っています。
角さんのぶんハピ 国分寺歴 30年
国分寺プレイステーション
プレイステーションに行くと子どもの遊びの原点が見られていいですね。うちは二人の子どもをプレイステーションで育てました。
プレイステーションにある小屋のひとつは、私が同じ子育てグループのお父さん達と一緒に、日曜日に集まり、古材を集めて作ったものなんですよ。プレイステーションは最初におもちゃ病院を始めた記念すべき場所でもあります。
市内の治療受付場所
「国分寺おもちゃ病院」TEL 042-304-3624 新町3-22-23 院長在宅時常時開院
国分寺おもちゃ病院 HP http://members3.jcom.home.ne.jp/sumikakao/toy-doctor.html
「国分寺市プレイステーション」TEL 042-323-8550 西元町3-26-35 受付随時
「BOUKENたまご」TEL 042-326-9770 本町2-3-3 受付随時
※ ひかり児童館(偶数月)、もとまち児童館(奇数月)にて
第3火曜日10:00〜14:00開院
市内の全児童館でも随時受け付けています
インタビューを終えて
インタビューの途中でラジコンカーを受け取りに来た少年がいました。今までにもなんどか来ているとのこと、彼は治ったおもちゃを手にとても嬉しそうでした。壊れても治して使えることを自分のおもちゃで体験している少年の中に“科学の目”が育っているのを感じました。
角先生がインタビューで「自分が楽しんだ結果、周りにいる人が喜んでくれたりするのは余録であって、人のためとか地域のためとかを最初において物事を始めないほうがいいね。まず自分が楽しむことからはじめないとね」とおっしゃった言葉通り、角先生がおもちゃ病院で本当に楽しんで仕事をしていらっしゃるんだなーというのが伝わってくるお話と空間でした。
CHEERSも「私たちが楽しんでしたことが結果的に周りの人に喜んもらえるような活動」を続けていきたいと思いました。
取材:CHEERS