必要に応じたきめ細かいサポートで
社会への自立をバックアップ
2015年に本多5丁目の交差点にほど近い国分寺街道沿いに、カフェと見間違うようなおしゃれな建物が出来ました。この建物が、「アフターケア相談所 ゆずりは」です。
「ゆずりは」の母体は、児童養護施設「子供の家」と自立援助ホーム「あすなろ荘」※を運営する「社会福祉法人 子供の家」。児童養護施設は2歳から高校を卒業する18歳までの子どもたちが暮らしていて、高校卒業後は、就労自立や進学しながら一人暮らしをしていく子もいますが、高校を中退、または中学卒業後に働く子どもたちは、退所となってしまうこともまだ多いのが現状です。自立援助ホームは、そういった子たちの受け皿にもなっていますが、まだ若い彼ら彼女たちが施設を退所後、虐待のトラウマや様々な背景を抱えながら、家族の支えもなく自らの力で生きていくのは多くの困難が伴います。
※児童養護施設は、親の死や失踪、虐待など様々な理由で、家庭で育つことが難しい子どもたちが高校を卒業するまで、衣食住を保証されて生活が出来る場所です。自立援助ホームは、同様の理由から家庭での生活が困難な15歳から20歳の子どもたちが、働きながら寮費約3万円をおさめて、自立に向けてサポートを得ながら生活しています。現在日本での児童虐待の件数は年間9万件(平成26年度)にも及び、4万7千人の子どもたちが児童養護施設などの社会的養護のもと生活をしている。
「退所した人たちの切実な現実を目の当たりにして、退所後にも頼れる場所の必要性を痛感しています」と話してくれたのは、都内の児童養護施設で職員として約8年間、子どもたちと生活をともにしてきた広瀬朋美さん。
退所後も、困難な状況に陥った時に「助けて」と言える場所をと、あすなろ荘で9年間職員をしていた現在の所長、高橋亜美さんが法人の協力を得る形で2011年4月、小金井市に「ゆずりは」を設立し、3年目の2013年より、東京都からの補助金を受託できるようになったのを機に、広瀬さんもスタッフとして加わりました。
2015年10月に「ゆずりは」の建物が取り壊されることになり、現在の国分寺市本多に移転。相談の場としてだけではなく、就労支援のためのジャム作りの工房も兼ね備えたスペースとして再スタートしました。ここは、利用者の悩みや苦しみに寄り添い、支援を続けている都内でも数少ない貴重な相談所です。
「ゆずりは」では、様々な相談にひとつひとつ丁寧に応対しています。“家族”が最後のセイフティネットとされがちな日本社会では、そこが機能していないが故に困難となってしまうような、ひとりでは抱えきれない重い相談がほとんどで、生活保護申請など各種行政サービスの丁寧な説明や手続きの同行、医療的なニーズがあれば病院への同行や立ち会い、金銭がらみや対人関係のトラブルなどには弁護士の紹介もしているそうです。
相談者数は年間約300人、のべ12000件に上ります。20代、30代からだけではなく40代以上の方からの相談も少なくないことから、長い間心の傷を抱えている人が多くいることがうかがえます。
また、実際に相談所に足を運べる人よりも電話やメールでの相談が多く、初めて電話で相談をくれた人には、その方のこれまでへのねぎらいと、何とかしたいとたどり着いてくれたことへの感謝を込めて、まず「お電話をくださってありがとうございます」と伝えているとのこと。そして、連絡をくれた人には、必要に応じてこちらから出向いて話を聞きに行くそうです。このお話しを聞いて、相手の気持ちを受け止め、寄り添うプロとしてのきめ細やかな心配りを感じました。
今は切羽詰った問題があるわけではないが、孤独を感じていたり、利用するかしないかは別として、行こうと思ったら連絡や予約もせずにふらっと行っても、受け入れてもらえていると感じられる場所があったらと、水曜と金曜に相談所の2階でサロン開いているとのこと。
金曜の夜は、無料で夕食も提供しています。木曜の夜には「高卒認定資格取得を目指す勉強会」を、講師に学芸大の学生を招いて開催しているそうです。「家族という頼れるものがないからこそ、自分の後ろ盾に最低限必要な学歴に再チャレンジする人たちを応援し、増やしていくため勉強会参加者には、交通費と夕食を出し、試験代4回分までを負担しています」と広瀬さん。
年齢制限はないので、いくつになってもやる気を持ってくれた人に門戸を開いており、9年かけて資格を取得した人もいるそうです。その他にも、児童養護施設職員を中心に、広く支援に関わる方々を対象に「支援者向けサロン」と称して、支援者がふらっと寄れて、発散したり、学びあえる場が提供できたらと、月に一度、最終火曜日の13時~18時はオープンしているとのことでした。
また2012年からは、年に一回「MY TREE ペアレンツ・プログラム」という、虐待をしてしまっているが「やめたい」「自分を変えたい」と思っている親を対象にサポートする取り組みを受講料、保育料無料で実施しています。これは現在、東京で開催する唯一のプログラムだそうです。
相談者の中には、働きたいと思っていても、様々な事情で働けない人がたくさんいます。ここで安心して働ける経験を重ね、就労の第一歩になるようにと「ゆずりは工房」を開設し、オリジナルのジャム作りをスタートしました。
プロのシェフの協力を得て、現在は週に1度3時間、5名の女性が働いているとのこと。「このジャムの売り上げは、材料費や賃金として直接支援になることはもちろんですが、自分たちが作ったものがたくさん売れることが自信となり、精神的な支えにもなるので、是非一度手に取ってほしい」と広瀬さん。「材料を吟味し、丁寧に作っているので、おいしいジャムだからと買っていただけるとより嬉しい」とのことでした。ジャムについての詳細は、ぶんハピのブログで紹介しています。http://ameblo.jp/bunjihappy/entry-12178740775.html
「家族が機能できなくなったなら、社会がみんなで子どもを育くむ、それが社会的養護。大人とされる年齢になっても、本来は社会のしくみとして用意されるべきセーフティーネットを、まだまだ家族に押しつけているような日本の現状を変えていきたい」と語る広瀬さん。
今回の取材で重い社会問題に関わる内容を、幼い子どもを持つ身として胸が締め付けられるような思いでお聞きしました。広瀬さんご自身にも5才と2才のお子さんがいらっしゃるとのこと。所長の高橋さんも2人のお子さんを育てながら地方から遠距離通勤をされていると伺い、それぞれが多忙な状況にもかかわらず、相談者の現状を少しでも良くしたいというお二人をはじめとするスタッフの方たちの熱意に感動し、胸が一杯になりました。傷を抱えた方たちに対して私が直接関わり支援することは難しくても、その方たちを支える場所やスタッフを応援することならできるかもしれない。応援したいと思いました。
「まだ移転してきて間もないけれど、国分寺の街の、自然に人と人とを繋げてくれる温かい包容力を感じている」という広瀬さん。
まだ全国的にも少ないこうした相談所が国分寺にあること、今日も奔走している人がいることを知り、ますます自分の暮らすこの街が好きになりました。
「家族を失い深く傷ついた心を持つ子どもたちや、かつて子どもだった人たちをケアしサポートしてゆくことが社会の役割である」という意識がひとりでも多くの人たちに広がり、少しずつでも社会が変わってゆくことを願ってやみません。
広瀬さんのぶんハピ 国分寺歴約8ヶ月
通勤途中の裏道にある床屋さんの黒板
手書きで毎日違う花の絵とその花言葉が書いてあり、仕事場に着く前にそれを読んでほっこりとした気分になっています。ある雨の日にその黒板が表に出ていないことがあり、がっかり。実はとても楽しみにしている自分がいることに、そのとき初めて気がつきました。
取材:ぶんハピリポーター
施設情報住所:国分寺市本多1-13-13 TEL/FAX : 042-315-6738 MOBILE : 090-9640-0177 Facebookページ https://www.facebook.com/acyuzuriha/ ゆずりは工房(オンラインショップ):https://yuzuriha.theshop.jp/ ジャムなどの購入はこちらから HP:https://www.acyuzuriha.com/ アクセス:国分寺駅北口より徒歩7分 開所時間:不定期 |